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8.10. 配列

PostgreSQL ではテーブルの列を可変長多次元配列として定義できます。あらゆる組込み型やユーザ定義型の配列も作成可能です。(とは言っても複合型もしくはドメインの配列はまだサポートされていません。)

8.10.1. 配列型の宣言

実際の配列の使いかたを説明するために、次のテーブルを作成します。

CREATE TABLE sal_emp (
    name            text,
    pay_by_quarter  integer[],
    schedule        text[][]
);

見てお解りのように配列データ型は配列要素のデータ型の名前に大括弧([])をつけて指定します。 このコマンドは text型文字列 (name)、従業員の四半期の給与を保存する integer 型の一次元配列(pay_by_quarter)、そして従業員の週間スケジュールを保存する text 型の二次元配列(schedule)の列を持つ sal_emp という名前のテーブルを作成します。

CREATE TABLE 構文で指定する配列の正確な大きさを決めることができます。

CREATE TABLE tictactoe (
    squares   integer[3][3]
);

とは言っても現在の実装では配列の大きさの制限を強要しません。--- 長さの指定がない配列とおなじ振舞をします。

実際のところ現在の実装では次元数の宣言も強制していません。特定の要素型の配列はすべて大きさあるいは次元数とは無関係に同じ型と見なされます。ですから CREATE TABLE で次元数や大きさを宣言することは単なるコメントで、実行時の動作に影響を及ぼすものではありません。

SQL:1999 標準に準拠したもう一つの構文を一次元配列に使う事ができます。pay_by_quarter を次のように定義することもできます。

    pay_by_quarter  integer ARRAY[4],

この構文は配列の大きさを示す整数による定数が必要です。とは言っても前で触れたように PostgreSQL は大きさの制限を強要しません。

8.10.2. 配列の値の入力

リテラル定数として配列の値を書き込むにはその要素の値を中括弧で囲みそれぞれの要素の値をコンマで区切ります。( C 言語を知っているならば、構造体を初期化するための構文のようなものと考えてください。)要素の値を二重引用符で囲うこともでき、コンマもしくは中括弧がある時は必ずそのように書かなければなりません。(詳細は以下にでてきます。)したがって配列定数の一般的書式は次のようになります。

'{ val1 delim val2 delim ... }'

ここで delim はその pg_type エントリに記録されている型の区切り文字です。PostgreSQL 配布物で提供されている標準データ型の内で box 型はセミコロン(;)を使用しますが、残り全てはコンマ(,)を使います。それぞれの val は配列要素の型の定数か副配列です。配列定数の例を以下に示します。

'{{1,2,3},{4,5,6},{7,8,9}}'

この定数は整数の三つの副配列を持っている二次元 3 x 3 の配列です。

(この種の配列定数は実際 項4.1.2.5 で説明されている一般型定数の特別の場合にすぎません。この定数はもともと文字列として扱われていて配列入力ルーチンに渡されました。明示的な型の仕様が必要かもしれません。)

では INSERT 文をいくつか紹介します。

INSERT INTO sal_emp
    VALUES ('Bill',
    '{10000, 10000, 10000, 10000}',
    '{{"meeting", "lunch"}, {"meeting"}}');
ERROR:  multidimensional arrays must have array expressions with matching dimensions

多次元配列はそれぞれの次元に対応する範囲指定が必要なことを覚えておいてください。

INSERT INTO sal_emp
    VALUES ('Bill',
    '{10000, 10000, 10000, 10000}',
    '{{"meeting", "lunch"}, {"training", "presentation"}}');

INSERT INTO sal_emp
    VALUES ('Carol',
    '{20000, 25000, 25000, 25000}',
    '{{"breakfast", "consulting"}, {"meeting", "lunch"}}');

現在の配列の実装の限界はある配列の個々の要素が SQL の NULL 値となれないことです。配列全体を NULL に設定することは可能ですが、いくつかの要素が NULL であってほかの要素が NULL でないという配列を持つことができません。 (これは将来変更予定です。)

上に記載した 2 つの挿入文の結果は次のようになります。

SELECT * FROM sal_emp;
 name  |      pay_by_quarter       |                 schedule
-------+---------------------------+-------------------------------------------
 Bill  | {10000,10000,10000,10000} | {{meeting,lunch},{training,presentation}}
 Carol | {20000,25000,25000,25000} | {{breakfast,consulting},{meeting,lunch}}
(2 rows)

ARRAY 生成子構文も使えます。

INSERT INTO sal_emp
    VALUES ('Bill',
    ARRAY[10000, 10000, 10000, 10000],
    ARRAY[['meeting', 'lunch'], ['training', 'presentation']]);

INSERT INTO sal_emp
    VALUES ('Carol',
    ARRAY[20000, 25000, 25000, 25000],
    ARRAY[['breakfast', 'consulting'], ['meeting', 'lunch']]);

配列要素は通常の SQL 定数もしくは演算式であることに注意してください。例えば文字列リテラルは配列リテラルにおけると同様二重引用符ではなく単一引用符で括られます。ARRAY 生成子構文は項4.2.10 により詳しく説明があります。

8.10.3. 配列へのアクセス

ではテーブルに対していくつかの問い合わせを行ってみましょう。初めに、1 回にある配列の単一要素にアクセスする方法を示します。この問い合わせは第 2 四半期に給与が更新された従業員の名前を抽出します。

SELECT name FROM sal_emp WHERE pay_by_quarter[1] <> pay_by_quarter[2];

 name
-------
 Carol
(1 row)

配列の添字番号は大括弧で囲んで書かれます。 デフォルトで PostgreSQL は配列に対し「1 始まり」の振り番規定を採用しています。つまり要素が n 個ある配列は array[1] で始まり、array[n] で終わります。

次の問い合わせは全ての従業員の第 3 四半期の給与を抽出します。

SELECT pay_by_quarter[3] FROM sal_emp;

 pay_by_quarter
----------------
          10000
          25000
(2 rows)

また、配列や副配列の任意の縦方向の部分を切りだすこともできます。一次元以上の配列についてその一部を表現するには、lower-bound:upper-bound と記述します。たとえばこの問い合わせは Bill のその週の初めの 2 日 に最初何が予定されているかを抽出します。

SELECT schedule[1:2][1:1] FROM sal_emp WHERE name = 'Bill';

        schedule
------------------------
 {{meeting},{training}}
(1 row)

次のように書くこともできます。

SELECT schedule[1:2][1] FROM sal_emp WHERE name = 'Bill';

同じ結果が得られます。配列の添字に対する演算は、どれかひとつでも添字が lower:upper という形式で書かれていると、配列の一部を表していると想定します。一つの値だけが指定される場合この例のように任意の添字について下限を 1 と仮定します。

SELECT schedule[1:2][2] FROM sal_emp WHERE name = 'Bill';

                 schedule
-------------------------------------------
 {{meeting,lunch},{training,presentation}}
(1 row)

現在の配列境界の外から取り出しても、エラーにならず、SQLのNULL値が生成されます。 例えば、scheduleの次元が現在 [1:3][1:2]であった場合、schedule[3][3]を参照するとNULLになります。 同様に、間違った番号の添え字で配列を参照した場合もエラーにならず、NULLになります。 現在の配列境界のまったく外側の部分配列を取り出した場合も同様にNULLの配列になります。 しかし、要求した部分配列が部分的に配列境界に重なる場合、警告無く重なった領域のみに減らされます。

array_dims 関数で任意の配列値の現在の次元を取り出せます。

SELECT array_dims(schedule) FROM sal_emp WHERE name = 'Carol';

 array_dims
------------
 [1:2][1:1]
(1 row)

array_dims 関数は、text 型で結果を返します。人間が結果を見るためには便利ですが、プログラムにとってはあまり都合がよいとは言えないかもしれません。次元は array_upperarray_lower でも抽出することができ、それぞれ特定の配列の次元の上限と下限を返します。

SELECT array_upper(schedule, 1) FROM sal_emp WHERE name = 'Carol';

 array_upper
-------------
           2
(1 row)

8.10.4. 配列の変更

配列の値をすべて置き換えることができます。

UPDATE sal_emp SET pay_by_quarter = '{25000,25000,27000,27000}'
    WHERE name = 'Carol';

もしくは ARRAY 演算構文を用いて次のように書きます。

UPDATE sal_emp SET pay_by_quarter = ARRAY[25000,25000,27000,27000]
    WHERE name = 'Carol';

配列の 1 つの要素を更新することも可能です。

UPDATE sal_emp SET pay_by_quarter[4] = 15000
    WHERE name = 'Bill';

あるいは一部分の更新も可能です。

UPDATE sal_emp SET pay_by_quarter[1:2] = '{27000,27000}'
    WHERE name = 'Carol';

保存されている配列の値は既にある配列要素の直後に要素を割り当てるか、すでにあるデータの後もしくは上書きするかたちで一部分を指定することにより拡張することができます。たとえば、myarray配列の要素が現在四つあるとし、array[5] を指定するとその配列の要素は 5 つになります。現在では、このような配列の拡張は一次元配列でのみ可能となっていて、多次元配列ではできません。

配列の一部の指定で 1 始まり以外の添字がある配列を作れます。例えば添字が -2 から 7 までの値をもつ配列を array[-2:7] で指定できます。

新規の配列の値は連結演算子 || を用いて作成することもできます。

SELECT ARRAY[1,2] || ARRAY[3,4];
 ?column?
-----------
 {1,2,3,4}
(1 row)

SELECT ARRAY[5,6] || ARRAY[[1,2],[3,4]];
      ?column?
---------------------
 {{5,6},{1,2},{3,4}}
(1 row)

連結演算子を使うと一次元配列の最初もしくは最後に一つの要素を押し込むことができます。更には二つの N-次元配列もしくは N-次元配列と N+1-次元配列にも対応しています。

一つの要素が一次元配列の初めに押し込まれた場合、結果は右側演算項目の下限添字から 1 を差し引いた数に等しい下限添字を持った配列となります。1 つの要素が一次元配列の最後に押し込まれた場合、結果は左側演算項目の下限を引き継いだ配列となります。次に例をあげます。

SELECT array_dims(1 || ARRAY[2,3]);
 array_dims
------------
 [0:2]
(1 row)

SELECT array_dims(ARRAY[1,2] || 3);
 array_dims
------------
 [1:3]
(1 row)

等しい次元を持った二つの配列が連結された場合、結果は左側演算項目の外側の次元の下限添字を引き継ぎます。結果は右側被演算子のすべての要素に左側被演算子が続いた配列となります。例をあげます。

SELECT array_dims(ARRAY[1,2] || ARRAY[3,4,5]);
 array_dims
------------
 [1:5]
(1 row)

SELECT array_dims(ARRAY[[1,2],[3,4]] || ARRAY[[5,6],[7,8],[9,0]]);
 array_dims
------------
 [1:5][1:2]
(1 row)

N-次元配列が N+1-次元配列の最初または最後に押し込まれると結果は上記と似通った要素配列になります。それぞれの N-次元副配列は本質的に N+1-次元配列の外側の次元の要素となります。例をあげます。

SELECT array_dims(ARRAY[1,2] || ARRAY[[3,4],[5,6]]);
 array_dims
------------
 [0:2][1:2]
(1 row)

配列は array_prependarray_append、もしくは array_cat を使って構築することもできます。初めの二つは一次元配列のみに対応していますが、array_cat は多次元配列でも使えます。 ここで説明した結合演算子はそれぞれの関数を直接叩くのが望ましいことを覚えておいてください。事実それらの関数の主な目的は連結演算子の実装に使用することです。とは言ってもユーザ定義の集約関数を作る時そのまま使えます。例をあげます。

SELECT array_prepend(1, ARRAY[2,3]);
 array_prepend
---------------
 {1,2,3}
(1 row)

SELECT array_append(ARRAY[1,2], 3);
 array_append
--------------
 {1,2,3}
(1 row)

SELECT array_cat(ARRAY[1,2], ARRAY[3,4]);
 array_cat
-----------
 {1,2,3,4}
(1 row)

SELECT array_cat(ARRAY[[1,2],[3,4]], ARRAY[5,6]);
      array_cat
---------------------
 {{1,2},{3,4},{5,6}}
(1 row)

SELECT array_cat(ARRAY[5,6], ARRAY[[1,2],[3,4]]);
      array_cat
---------------------
 {{5,6},{1,2},{3,4}}

8.10.5. 配列内の検索

配列内のある値を検索するには配列のそれぞれの値を検証しなければなりません。もし配列の大きさがわかっているならば手作業でも検索できます。例をあげます。

SELECT * FROM sal_emp WHERE pay_by_quarter[1] = 10000 OR
                            pay_by_quarter[2] = 10000 OR
                            pay_by_quarter[3] = 10000 OR
                            pay_by_quarter[4] = 10000;

とは言ってもこの方法では大きい配列では大変な作業となりますし、配列の大きさが不明な場合この方法は使えません。代わりになる方法が 項9.17 で説明されています。上の問い合わせは以下のように書くことができます。

SELECT * FROM sal_emp WHERE 10000 = ANY (pay_by_quarter);

さらに配列で行の値がすべて 10000 に等しいものを見つけることもできます。

SELECT * FROM sal_emp WHERE 10000 = ALL (pay_by_quarter);

ティップ: 配列は集合ではありません。特定の配列要素に検索をかけることは多分にデータベース設計が誤っている可能性を示唆しています。配列の要素と見なされるそれぞれの項目を行に持つ別のテーブルを使うことを検討してください。このほうが検索がより簡単になり要素数が大きくなっても拡張性があります。

8.10.6. 配列の入出力構文

配列の値の外部表現は配列の要素の型に対する I/O 変換ルールに基づいて翻訳された項目と配列の構造を示す装飾項目で構成されています。装飾は配列の値を中括弧({})で囲んだものとつぎの項目との間を区切り文字で区切ったものです。区切り文字は通常コンマ(,)ですがほかの文字でもかまいません。配列の要素の型 typdelim を設定することで決まります。(PostgreSQL 配布物における標準のデータ型の中で box 型はセミコロン(;)を使いますがそのほかすべてはコンマを使っています。)多次元配列ではそれぞれの次元(列、面、立体など)はそれ自身の階層において中括弧、同じ階層の中括弧で括られたつぎの塊との間に区切り文字が書かれていなくてはいけません。

空の文字列や中括弧や区切り文字、二重引用符、バックスラッシュあるいは空白が含まれていると要素の値は配列出力処理で二重引用符で括られます。要素の値に組み込まれている二重引用符とバックスラッシュはバックスラッシュでエスケープされます。数値データ型に対しては二重引用符が出現しないと想定するのが安全ですが、テキストデータ型の場合引用がある場合とない場合に対処できるようにしておくべきです。(これは PostgreSQL リリース 7.2 以前からの振舞の変更です。)

デフォルトでは配列の次元の下限インデックス値は 1 に設定されています。 もし 1 に等しくない下限インデックスを配列が所有している場合実際の配列次元を示す追加の修飾項目が配列構造の修飾項目に先行します。 修飾項目はそれぞれの配列次元の上限と下限をコロン(:)で区切って前後を大括弧([])で括った形式になっています。 代入演算子(=)の後に配列次元修飾項目が続きます。例を示します。

SELECT 1 || ARRAY[2,3] AS array;

     array
---------------
 [0:2]={1,2,3}
(1 row)

SELECT ARRAY[1,2] || ARRAY[[3,4]] AS array;

          array
--------------------------
 [0:1][1:2]={{1,2},{3,4}}
(1 row)

この構文は配列リテラルでデフォルト以外の配列の添え字を指定する時にも使用されます。 例を示します。

SELECT f1[1][-2][3] AS e1, f1[1][-1][5] AS e2
 FROM (SELECT '[1:1][-2:-1][3:5]={{{1,2,3},{4,5,6}}}'::int[] AS f1) AS ss;

 e1 | e2
----+----
  1 |  6
(1 row)

前に示したように配列に値を書き込む場合は独立した配列要素を二重引用符で括ります。配列値パーザが配列要素値によって混乱を来さないように必ずこの形式を守ってください。例えば、中括弧、コンマ(もしくはどんな区切り文字)、二重引用符、逆スラッシュもしくは前後についた空白を含む要素は必ず二重引用符で括らなければなりません。二重引用符もしくは逆スラッシュを引用符付きの配列要素に付け加えたい場合はその直前に逆スラッシュを付けます。別の方法として配列構文と見做されるような全てのデータ文字を逆スラッシュでエスケープしても構いません。

括弧の右側もしくは左側それぞれの前と後に空白があっても構いません。同様独立した項目の文字列の前後に空白があっても構いません。これら全ての場合において空白は無視されます。とは言っても二重引用符で囲まれた要素の中の空白、もしくは要素の空白文字以外により両側が括られているものは無視されません。

注意: SQL 命令文でかかれたものは最初に文字列リテラルとして解釈されその次に配列として解釈される事を覚えておいてください。と言うことは逆スラッシュの数が倍になることを意味します。例えば逆スラッシュと二重引用符を含んだ text 配列値を挿入する場合次のようになります。

INSERT ... VALUES ('{"\\\\","\\""}');

文字列リテラルプロセッサは一つの階層の逆スラッシュを取り除きますので配列値パーザに渡されたときは {"\\","\""} の様になります。その反対に text データ型入力ルーチンに与えられた文字列はそれぞれ \ and " になります。(もし入力ルーチンが逆スラッシュを特別に取り扱うデータ型を操作している場合(例えば bytea)、一つの逆スラッシュを配列要素に保存したい時は命令文の中に 8 つの逆スラッシュが必要です。 ドル引用符付け(項4.1.2.2参照)を使用して、バックスラッシュを二重化する必要性をなくすことができます。

ティップ: SQL 命令文の中で配列値を書く場合配列リテラル構文よりも ARRAY 生成子構文(項4.2.10 を参照)の法が往々にして扱いやすい場合があります。