本節ではOracleからPostgreSQLへアプリケーションを移植する開発者の手助けとなるように、 PostgreSQLのPL/pgSQL言語とOracleのPL/SQL言語の違いについて説明します。
PL/pgSQLは多くの点でPL/SQLに似ています。 それはブロックで構成されていて、厳格な言語であり、全ての変数は宣言されなければならない点です。 代入やループ、条件分岐も同様です。 PL/SQLからPL/pgSQLに移植する際に注意しなければならない、主な違いを以下に示します。
PostgreSQLのパラメータにはデフォルト値がありません。
PostgreSQLでは関数をオーバーロードすることができます。 これはしばしばデフォルトパラメータの欠如を補うために使われます。
PL/pgSQLではカーソルは必要ありません。 FOR文内に問い合わせを置くだけです。 (例35-5を参照してください。)
PostgreSQL は関数本体内部でドル引用符を使用するか、単一引用符をエスケープする必要があります。 項35.2.1を参照してください。
パッケージの代わりに、スキーマを使用して関数群をグループにまとめてください。
パッケージがないため、パッケージレベルの変数もありません。 これは幾分か困惑させられることです。 それに代わって、セッション毎の状態を一時テーブル内部に保存できます。
例35-4に簡単な関数のPL/SQLからPL/pgSQLへの移植方法を示します。
例 35-4. 簡単な関数のPL/SQLからPL/pgSQLへの移植
以下はOracle PL/SQLの関数です。
CREATE OR REPLACE FUNCTION cs_fmt_browser_version(v_name IN varchar,
v_version IN varchar)
RETURN varchar IS
BEGIN
IF v_version IS NULL THEN
RETURN v_name;
END IF;
RETURN v_name || '/' || v_version;
END;
/
show errors;
この関数を通じて、PL/pgSQLとの違いを見てみましょう。
Oracle は IN、OUT、INOUT というパラメータを関数に渡すことができます。 例えば、INOUTはパラメータが値を受け取って別の値を返すことを意味します。 PostgreSQL では "IN" パラメータしかないため、関数は単一の値しか返せません。 したがって、パラメータの種類指定はありません。
関数プロトタイプ内の RETURN キーワード (関数本体ではありません) は PostgreSQL では RETURNS になります。 同様に IS は AS になります。 PL/pgSQL 以外の言語でも関数を記述できるため、LANGUAGE 句が必要となります。
PostgreSQL は関数本体を文字列リテラルと考えます。 したがって、それを囲むドル引用符または他の引用符が必要です。 これは / で終了する Oracle の方法の代替です。
PostgreSQL には show errors コマンドはありません。 また、エラーが自動的に表示されるため、必要ありません。
それではPostgreSQLに移植されると、この関数がどのようになるか見てみましょう。
CREATE OR REPLACE FUNCTION cs_fmt_browser_version(v_name varchar,
v_version varchar)
RETURNS varchar AS $$
BEGIN
IF v_version IS NULL THEN
RETURN v_name;
END IF;
RETURN v_name || '/' || v_version;
END;
$$ LANGUAGE plpgsql;
例35-5は、他の関数を生成する関数を移植する方法、ならびに、その結果発生する引用符問題を扱う方法を示します。
例 35-5. 他の関数を生成するPL/SQLをPL/pgSQLに移植
以下の手続きは、SELECT文からの行をとって、効率のためにIF文で結果を巨大な関数に埋め込んでいます。 特にカーソルとFORループにおける違いに注目してください。
以下はOracle版です。
CREATE OR REPLACE PROCEDURE cs_update_referrer_type_proc IS
CURSOR referrer_keys IS
SELECT * FROM cs_referrer_keys
ORDER BY try_order;
func_cmd VARCHAR(4000);
BEGIN
func_cmd := 'CREATE OR REPLACE FUNCTION cs_find_referrer_type(v_host IN VARCHAR,
v_domain IN VARCHAR, v_url IN VARCHAR) RETURN VARCHAR IS BEGIN';
FOR referrer_key IN referrer_keys LOOP
func_cmd := func_cmd ||
' IF v_' || referrer_key.kind
|| ' LIKE ''' || referrer_key.key_string
|| ''' THEN RETURN ''' || referrer_key.referrer_type
|| '''; END IF;';
END LOOP;
func_cmd := func_cmd || ' RETURN NULL; END;';
EXECUTE IMMEDIATE func_cmd;
END;
/
show errors;
この関数をPostgreSQLで記述するとこうなるでしょう。
CREATE OR REPLACE FUNCTION cs_update_referrer_type_proc() RETURNS void AS $func$
DECLARE
referrer_keys RECORD; -- FOR で使用される汎用レコードを宣言
func_body text;
func_cmd text;
BEGIN
func_body := 'BEGIN' ;
-- FOR <record> 構文を使用した FOR ループで、問い合わせの結果
-- をどのようにスキャンしているかに注意してください。
FOR referrer_key IN SELECT * FROM cs_referrer_keys ORDER BY try_order LOOP
func_body := func_body ||
' IF v_' || referrer_key.kind
|| ' LIKE ' || quote_literal(referrer_key.key_string)
|| ' THEN RETURN ' || quote_literal(referrer_key.referrer_type)
|| '; END IF;' ;
END LOOP;
func_body := func_body || ' RETURN NULL; END;';
func_cmd :=
'CREATE OR REPLACE FUNCTION cs_find_referrer_type(v_host varchar,
v_domain varchar,
v_url varchar)
RETURNS varchar AS '
|| quote_literal(func_body)
|| ' LANGUAGE plpgsql;' ;
EXECUTE func_cmd;
RETURN;
END;
$func$ LANGUAGE plpgsql;関数本体を別途作成し、それを quote_literal に渡して 本体内の引用符を二重化する方法に注目してください。 新規の関数を定義する時ドル引用符の使用が安全とは限らないため、この方法が必要となります。 それは referrer_key.key_string の領域に、どのような文字列が書き込まれているか不明だからです。 (referrer_key.kind は常に信用できる host か domain か url であると仮定しますが、どんなものでも referrer_key.key_string になりうるので、ドル記号を含む可能性があります。) この関数は Oracle 版より実際に改善されています。 それは referrer_key.key_string または referrer_key.referrer_type が引用符を含むとき、おかしなコードを生成しないからです。
例35-6は、OUTパラメータを持ち、文字列操作を行なう関数の移植方法を示します。 PostgreSQLにはinstrはありませんが、他の関数を組み合わせることで回避できます。 項35.11.3に、移植を簡略化できるようにinstrのPL/pgSQLによる実装を示します。
例 35-6. 文字列操作を行ない、OUTパラメータを持つPL/SQLプロシージャのPL/pgSQLへの移植
以下の Oracle PL/SQL プロシージャは、URLを解析していくつかの要素(ホスト、パス、問い合わせ)を返します。 PL/pgSQL 関数は 1つしか値を返すことができません。 PostgreSQL での回避方法 の1つとして、複合型 (行型) の戻り値を作成する方法があります。
以下はOracle版です。
CREATE OR REPLACE PROCEDURE cs_parse_url(
v_url IN VARCHAR,
v_host OUT VARCHAR, -- この値は戻されます
v_path OUT VARCHAR, -- この値も戻されます
v_query OUT VARCHAR) -- この値も戻されます
IS
a_pos1 INTEGER;
a_pos2 INTEGER;
BEGIN
v_host := NULL;
v_path := NULL;
v_query := NULL;
a_pos1 := instr(v_url, '//');
IF a_pos1 = 0 THEN
RETURN;
END IF;
a_pos2 := instr(v_url, '/', a_pos1 + 2);
IF a_pos2 = 0 THEN
v_host := substr(v_url, a_pos1 + 2);
v_path := '/';
RETURN;
END IF;
v_host := substr(v_url, a_pos1 + 2, a_pos2 - a_pos1 - 2);
a_pos1 := instr(v_url, '?', a_pos2 + 1);
IF a_pos1 = 0 THEN
v_path := substr(v_url, a_pos2);
RETURN;
END IF;
v_path := substr(v_url, a_pos2, a_pos1 - a_pos2);
v_query := substr(v_url, a_pos1 + 1);
END;
/
show errors;
これを PostgreSQL で記述すると、以下のようになります。
CREATE TYPE cs_parse_url_result AS (
v_host VARCHAR,
v_path VARCHAR,
v_query VARCHAR
);
CREATE OR REPLACE FUNCTION cs_parse_url(v_url VARCHAR)
RETURNS cs_parse_url_result AS $$
DECLARE
res cs_parse_url_result;
a_pos1 INTEGER;
a_pos2 INTEGER;
BEGIN
res.v_host := NULL;
res.v_path := NULL;
res.v_query := NULL;
a_pos1 := instr(v_url, '//');
IF a_pos1 = 0 THEN
RETURN res;
END IF;
a_pos2 := instr(v_url, '/', a_pos1 + 2);
IF a_pos2 = 0 THEN
res.v_host := substr(v_url, a_pos1 + 2);
res.v_path := '/';
RETURN res;
END IF;
res.v_host := substr(v_url, a_pos1 + 2, a_pos2 - a_pos1 - 2);
a_pos1 := instr(v_url, '?', a_pos2 + 1);
IF a_pos1 = 0 THEN
res.v_path := substr(v_url, a_pos2);
RETURN res;
END IF;
res.v_path := substr(v_url, a_pos2, a_pos1 - a_pos2);
res.v_query := substr(v_url, a_pos1 + 1);
RETURN res;
END;
$$ LANGUAGE plpgsql;この関数は以下のように使用できます。
SELECT * FROM cs_parse_url('http://foobar.com/query.cgi?baz');
例35-7は、Oracleに特化した多くの機能を使用したプロシージャの移植方法を示します。
例 35-7. PL/SQLプロシージャのPL/pgSQLへの移植
以下はOracle版です。
CREATE OR REPLACE PROCEDURE cs_create_job(v_job_id IN INTEGER) IS
a_running_job_count INTEGER;
PRAGMA AUTONOMOUS_TRANSACTION;(1)
BEGIN
LOCK TABLE cs_jobs IN EXCLUSIVE MODE;(2)
SELECT count(*) INTO a_running_job_count FROM cs_jobs WHERE end_stamp IS NULL;
IF a_running_job_count > 0 THEN
COMMIT; -- ロックを解放(3)
raise_application_error(-20000, 'Unable to create a new job: a job is currently running.');
END IF;
DELETE FROM cs_active_job;
INSERT INTO cs_active_job(job_id) VALUES (v_job_id);
BEGIN
INSERT INTO cs_jobs (job_id, start_stamp) VALUES (v_job_id, sysdate);
EXCEPTION
WHEN dup_val_on_index THEN NULL; -- 既存であっても問題なし
END;
COMMIT;
END;
/
show errors
このようなプロシージャは void 型を返す PostgreSQL 関数に簡単に変換することができます。 これは以下のような事を教えてくれることもあって、このプロシージャは特におもしろいです。
それでは、このプロシージャをPL/pgSQLに移植することができた方法を見てみましょう。
CREATE OR REPLACE FUNCTION cs_create_job(v_job_id integer) RETURNS void AS $$
DECLARE
a_running_job_count integer;
BEGIN
LOCK TABLE cs_jobs IN EXCLUSIVE MODE;
SELECT count(*) INTO a_running_job_count FROM cs_jobs WHERE end_stamp IS NULL;
IF a_running_job_count > 0 THEN
RAISE EXCEPTION 'Unable to create a new job: a job is currently running';(1)
END IF;
DELETE FROM cs_active_job;
INSERT INTO cs_active_job(job_id) VALUES (v_job_id);
BEGIN
INSERT INTO cs_jobs (job_id, start_stamp) VALUES (v_job_id, now());
EXCEPTION
WHEN unique_violation THEN (2)
-- 既存であっても問題なし
END;
RETURN;
END;
$$ LANGUAGE plpgsql;このプロシージャは Oracle 版に比べて機能的な違いがあります。 それは cs_jobs テーブルの排他的ロックがトランザクションの終了まで継続することです。 同様に、関数呼び出しの後で (例えばエラーが原因で) アボートすると、プロシージャの影響はロールバックされます。
本節では、Oracle PL/SQL関数のPostgreSQLへの移植における、その他の注意事項を説明します。
PL/pgSQL において EXCEPTION 句が例外を捕捉すると、BEGIN 以降のそのブロックにおけるデータベースの変更が自動的にロールバックされます。 すなわち、Oracle の PL/SQL による以下のプログラムと同等の処理が実行されます。
BEGIN
SAVEPOINT s1;
... code here ...
EXCEPTION
WHEN ... THEN
ROLLBACK TO s1;
... code here ...
WHEN ... THEN
ROLLBACK TO s1;
... code here ...
END;このような方式で SAVEPOINT と ROLLBACK TO を使用した Oracle のプロシージャの書き換えは簡単です。 単に SAVEPOINT と ROLLBACK TO の処理を削除すればいいだけです。 これと異なった方式で SAVEPOINT とROLLBACK TO を使用したプロシージャのときは、それに応じた工夫が必要になると思われます。
PL/pgSQLのEXECUTEはPL/SQL版とよく似ています。 しかし項35.6.5で説明されているquote_literal(text)とquote_string(text)を使うことを覚えておかなければいけません。 これらの関数を使用しない限りEXECUTE ''SELECT * from $1'';という構文は動作しません。
PostgreSQL には実行を最適化するために 2つの関数生成修飾子があります。 一時性 (同じ引数が与えられた場合常に同じ結果が返します) と"厳密性" (引数のいずれかにNULLが含まれる場合NULLを返します) です。 詳細はCREATE FUNCTIONを参照してください。
これらの最適化属性を利用するためには、CREATE FUNCTION文を以下のようにします。
CREATE FUNCTION foo(...) RETURNS integer AS $$ ... $$ LANGUAGE plpgsql STRICT IMMUTABLE;
本節には、移植作業を簡略化するために使用できる、Oracle互換のinstr関数のコードがあります。
--
-- Oracle のものと同じ動作をする instr 関数
-- 構文 :instr(string1,string2,[n],[m]) ただし、[]は省略可能なパラメータ
--
-- string1 内の n番目の文字からm番目の文字までで string2 を探します。
-- n が負の場合、逆方向に検索します。 mが渡されなかった場合は、1 と
-- みなします(最初の文字から検索を始めます)。
--
CREATE FUNCTION instr(varchar, varchar) RETURNS integer AS $$
DECLARE
pos integer;
BEGIN
pos:= instr($1, $2, 1);
RETURN pos;
END;
$$ LANGUAGE plpgsql STRICT IMMUTABLE;
CREATE FUNCTION instr(string varchar, string_to_search varchar, beg_index integer)
RETURNS integer AS $$
DECLARE
pos integer NOT NULL DEFAULT 0;
temp_str varchar;
beg integer;
length integer;
ss_length integer;
BEGIN
IF beg_index > 0 THEN
temp_str := substring(string FROM beg_index);
pos := position(string_to_search IN temp_str);
IF pos = 0 THEN
RETURN 0;
ELSE
RETURN pos + beg_index - 1;
END IF;
ELSE
ss_length := char_length(string_to_search);
length := char_length(string);
beg := length + beg_index - ss_length + 2;
WHILE beg > 0 LOOP
temp_str := substring(string FROM beg FOR ss_length);
pos := position(string_to_search IN temp_str);
IF pos > 0 THEN
RETURN beg;
END IF;
beg := beg - 1;
END LOOP;
RETURN 0;
END IF;
END;
$$ LANGUAGE plpgsql STRICT IMMUTABLE;
CREATE FUNCTION instr(string varchar, string_to_search varchar,
beg_index integer, occur_index integer)
RETURNS integer AS $$
DECLARE
pos integer NOT NULL DEFAULT 0;
occur_number integer NOT NULL DEFAULT 0;
temp_str varchar;
beg integer;
i integer;
length integer;
ss_length integer;
BEGIN
IF beg_index > 0 THEN
beg := beg_index;
temp_str := substring(string FROM beg_index);
FOR i IN 1..occur_index LOOP
pos := position(string_to_search IN temp_str);
IF i = 1 THEN
beg := beg + pos - 1;
ELSE
beg := beg + pos;
END IF;
temp_str := substring(string FROM beg + 1);
END LOOP;
IF pos = 0 THEN
RETURN 0;
ELSE
RETURN beg;
END IF;
ELSE
ss_length := char_length(string_to_search);
length := char_length(string);
beg := length + beg_index - ss_length + 2;
WHILE beg > 0 LOOP
temp_str := substring(string FROM beg FOR ss_length);
pos := position(string_to_search IN temp_str);
IF pos > 0 THEN
occur_number := occur_number + 1;
IF occur_number = occur_index THEN
RETURN beg;
END IF;
END IF;
beg := beg - 1;
END LOOP;
RETURN 0;
END IF;
END;
$$ LANGUAGE plpgsql STRICT IMMUTABLE;